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第17回 ストラテジック・インサイト・セミナーのご報告 2010年(夏)

2010年7月16日

辻野晃一郎氏から、「企業変革を考える」というテーマでご講演をいただいきました。以下はその要約です。

通商産業省の「産業競争力部会最終報告」をはじめ、現在の日本企業、あるいは日本全体の競争力の低下を指摘する声が数多く聞かれ、それに伴う閉塞感に強い危機感を抱いている。

このような状況を招いた原因として、グローバル・リーダーの不在、過当競争、大企業かつ製造業中心の産業構造、そして若年層の安定志向、などが考えられ、これを打開するためにはスピードのある経営とイノベーションが重要である。その具体的な事例としてグーグル社を取り上げる。インターネットの世界では“やるリスクよりやらないリスク”が大きい。グーグルでも、スピード経営が実践されており、“オフィスで9時から5時までという枠”にとらわれないワークスタイルやカジュアルでフラットなコミュニケーションを重視するカルチャーが特徴である。また一方で、どんなに素晴らしいアイディアやテクノロジーであっても、広く普及しなければイノベーションとは言えないので、イノベーションを次々と具現化するための地道で泥臭い努力を続けている。グーグルジャパンにおいても、昨年は“Change & Challenge”をスローガンに日本法人の体質強化に勤めた。

実はかつてのソニーも、スピーディでフラットな組織の文化と特徴を持ってイノベーションを次々と実現させた代表的な企業のひとつである。それがゆえに創業者の井深大氏や盛田昭夫氏は、米国のIT企業創業者達からも尊敬を集めてきた。ソニーも企業のライフサイクルが成熟期に移行するに伴って変わってしまったものの、日本と日本人が過去の実績に誇りと自信を取り戻し、今後新たな事業を育てていく気概を持つことが重要である。

現在クラウド・コンピューティングへの移行が、大きな潮流となっている。グーグルは今やグローバルな公共財と捉えるべきでもあり、こういうものをフル活用してライフスタイルやワークスタイルの刷新を積極的に行うのがよい。もう一度日本企業の競争力が復活し、日本が元気になる事を期待したい。

辻野氏の話は全てご自身の経験に基づくものであり、その点で説得力と示唆に富むものでした。そのため、さらに具体的な事例について同氏のコメントを求めるべく、多くの質問が寄せられ質疑応答時間は30分にも及びましたが、これは全ての質問に回答したいという同氏の希望を受けてのことであり、その真摯な姿勢にも深く感銘を受けました。多忙な中でご講演を快くお引き受けいただいた辻野晃一郎氏に、改めて感謝を申し上げます。