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KBS創立50年に際して

2012年3月15日
河野委員長の写真

KBS創立50年に際して

慶應義塾大学大学院経営管理研究科 委員長
慶應義塾大学ビジネス・スクール 校長
河野 宏和

昨年の東日本大震災から1年、新たな年度を迎えようとしています。復興に向けた動きはこれからが正念場になります。まずは、被災された方々に、少しでも明るい年になることをお祈りしたいと思います。

今年KBSは設立50年の節目を迎えます。この4月の入学生がM35期、その前にK期と呼ばれている1年制のプログラムが9年ありましたが、正式にエクゼクティブセミナー(今の経営幹部セミナー)を実施するマネジメント教育機関としてKBSが慶應義塾内に設立されたのが1962年です。以来今日まで、KBSは、2600名を超えるMBAと、17000名を超える経営人材(セミナー同窓生)を輩出してきました。この間のKBSを支えて下さった多数の企業の皆様、諸先輩方やOB・OG、事務スタッフなど関係諸氏に、改めて深く感謝したいと思います。

KBSの学生や教職員の水準の高さは、日本で唯一、AACSBとEQUISという2つの国際認証を取得・継続していることでも示されています。しかし、歴史の長さ、同窓生の数、あるいは国際認証、どの要因をもってしても、KBSの将来が明るいと安心していられる状況ではありません。日本が閉塞感に覆われていると言われる中で、最も伝統あるビジネススクールとして、自分たちの繁栄というよりも、日本のビジネス界を先導していく気概をもって、KBSをより良い学校に変えていく必要があると認識しています。

目を少し外に向けてみれば、今や欧米だけでなく、中国、インド、中東、アフリカ、南米などのビジネススクールが世界各地に活動領域を広げ、相互の提携を活発に進めています。もちろん、人数よりも質が大切なのですが、日本全体で育成されるMBAは年間に約3000人、これに対して、中国では、政府認可のビジネススクールが200校以上あり、1校だけで1000人近くのMBAを育成しています。日本のビジネス界の将来を考えても、安穏としていられる時代でないことは明らかです。

近年、グローバル人材の必要性がしばしば指摘され、ビジネススクールへの要望も高まっています。この言葉は20年以上前にも使われていましたが、当時のように海外法人で日本人が外国人をマネジメントするという含意はもはや適切ではありません。人種・国籍・性別・年齢などに関わらず、多様性を生かしてマネジメントできる人材に必要な素養を涵養できているか、冷静に見つめ直す必要があります。同質性を重視するだけでなく、日本人があまり得意としてこなかった多様性のマネジメントに、KBSも踏み込んでいく必要を感じています。国際単位交換、ダブルディグリー、さらには教員の交流を進めていくことが不可欠です。

同時に、ビジネス環境がグローバル化し、膨大な情報が日々流れる現在、「リーダーシップ」の一層の強化も欠かせません。的確に全体を見渡す視点や迅速な意思決定能力を鍛えるため、KBSは、ケースメソッドを教育方法のベースとしており、さらにそれをバージョンアップさせていきたいと考えています。経営に関わる知識やスキルの高度化だけでなく、情熱や使命感といったマインドセットの育成までを含む教育を進める上で、教員に求められる能力と期待は、これまでの50年とは異なるはずです。従来のハーバード・ビジネススクールからの支援に感謝しつつも、日本型、あるいはKBS型ケースメソッドをアピールしていくべき時代に入っていると感じます。

研究についても、経営に関わる全ての領域で広く専任教員を揃えるフルフレッジ体制であることを生かし、分野横断的に、産学で連携し、社会的な課題に応えていく研究を進めることに、KBSの価値の根源があるはずです。経済的な発展で世界の先頭を走ってきた日本ですが、環境、エネルギー、経済格差、ヘルスケアなど、取り組むべき課題は数多くあります。日本のトップ・ビジネススクールとして、その研究成果を社会に発信していくことは、KBSだけでなく、日本の活力を高めるためにも、極めて重要な活動です。フランスやアメリカのビジネススクールとのアライアンス、あるいは中国・韓国のトップスクールとの共同研究に取り組んでいます。スタートが多少遅れた感はありますが、その分、これからの動きを加速すべきと考えています。

同窓会との連携については、今後ますます密にしていきたいと考えています。昨年から、OB・OGに、ビジネス最前線の話題、KBS卒業後のキャリア、在校生に伝えたいことを語っていいただく経営実務講座という科目をスタートしました。新入生合宿でも、同窓会役員の方に講演いただく仕組みをスタートし、今年で3年目になります。昨年から、同窓生からKBSに寄付をいただく仕組みも整えました。KBSの今後を考える上で、同窓会はKBSにとって極めて大切なネットワークです。

一つの節目として、50年記念のイベントを、10月20日(土)午後に日吉で予定しています。確かに一つの記念ですが、過去を振り返るのではなく、これからの日本が取り組むべき課題、KBSの課題、そしてKBSが進むべき方向性を議論する分科会中心の討論型イベントとする計画です。同窓会とKBSの共催イベントとして、一人でも多くの方にご参集いただき、意見を交換することで、KBSのこれからを共に考えたいと思っています。